靴の素材と食文化の関係!副産物である革を活かした先人

ファッションコラム

靴の素材は様々

革靴の素材というと牛革が一般的ですが、現在は技術の進歩もあって合成皮革や化学繊維、ゴム素材など多岐にわたっています。

牛側の革靴でも安いものだと構造そのものが弱かったり、革の部位でも関節近くなどのシワが多い箇所があてがわれるので、直ぐにヨレヨレになってしまうような事もあるので、3000円ぐらいの革靴なら牛側よりも合成皮革の方が良い状態を保ちやすい事もあります。

靴に使われる素材というのは、時代の進歩によっても変わっていくものなのですが、過去を振り返ってみると、それぞれの時代や文化に適してきたものが使われてきました。

そこで今回は靴の素材と食文化の関係について紹介します。こういった事を理解出来るようになると、靴選びの基準も変わってくるかも知れませんし、ファッションへの興味も深まるので一つ上のオシャレができるようになるものですよ。

食文化の副産物だった靴の素材

昔の日本人は草履を履いていました。主食がお米だったので稲作文化の副産物である藁が、消耗品である履物の素材として利用されていました。

草履

他に日本人が利用していた靴として下駄などがあります。これはおそらく高温多湿な気候風土に合わせて考えられたのではないでしょうか。

欧米の革靴も同じように食文化が関係しています。

肉食文化である欧米を中心に革靴は発展してきました。本来捨てられるはずの動物の皮を腐敗しないように加工(皮から革へ)し、靴などに利用していました。

また牛側の質にも面白い傾向があります。食文化として成牛の硬い肉を好んで食べていたイギリスでは、大人の牛の頑丈で分厚い革が副産物として発展し、質実剛健で堅牢なイギリス靴になりました。

一方で柔らかい牛肉を好んで食べていたイタリアでは、生後半年ぐらいの牛の柔らかい牛革が副産物として残り、造形がしやすい事もあってセクシーなシルエットのイタリア靴として発展していきました。

ステーキ

食文化の違いによる副産物が、両国を代表する革製品や靴の特徴になったわけです。

質実剛健、頑丈なイギリスの革靴、柔らかくきめ細かいセクシーなイタリアの革靴。

これらのような歴史、食文化を無視して革の質を考えることもなく、形だけを真似て他の国のメーカーがイタリアのような靴を作っても、セクシーな靴には簡単にはなりません。

同じようにイギリスのような頑丈そうな形の靴を作っても、革の質が違えばすぐにへたって形が崩れてしまいます。

日本でも酪農が盛んな栃木の牛の革を使った栃木レザーというのものがあるのですが、ヨーロッパの長い歴史の中で導き出された方法と適しているわけでもないので、なかなか国産の革が高評価を得られる事が少ないわけです。

気候風土や食文化といったものが、靴の素材にまで影響がある事を知ると、高価な価格にも納得しやすくなるのではないでしょうか。

変わり種の素材

革靴の他にも食文化の副産物でつくられた靴は世界各国にあります。エスキモーはアザラシの革でつくられた服や靴を履いていましたし、北海道の先住民族のアイヌの人たちもアザラシの皮を利用して靴を作っていたり、内陸のアイヌの人だと鹿の革を利用していたり、鮭の皮で作られた靴も存在していました。

鮭の皮の靴 引用元:http://takedanet.com/archives/1013799751.html

オーストラリアではカンガルーの革が用いられていますし、寒さが厳しいスウェーデンで開発されたスエードというのは、一般的には表側に使われる上部な革の面を内側に用い、外部からの衝撃による損傷を避ける為に開発されたと言われています。

靴のような傷みやすいものに使われる素材というのは、それぞれの地域の特性に合わせて進化してきたのであり、消耗品だけに副産物を上手に利用してきた先人の知恵は、本当に素晴らしいなと思います。命を無駄にしていません。

中には希少動物の革を採取する為に狩りをするようなケースもありますが、それは貴族や権力者のような見栄っ張りだけが喜ぶのであり、一般の人が履いていた靴の素材というのは、副産物が用いられる事が多いものです。

一方で戦後の日本、高度経済成長の日本では大量の石油を消費するようになり、石油の精製過程の副産物として、大量のプラスチックが作られるようになりました。それもまた一つの文化として成長していきました。

レジ袋を作るために大量の石油を使うのであれば、エコバックもエコだとは思うのですが、実状はガソリンなどを作った残りの副産物で作られるので、直接石油の消費を減らす事にはなりません。

エコバック

石油は精製する課程でガソリンだけができるのではなく、重油や経由や灯油やLPガスやアスファルトの原料となる成分など、様々な副産物(?)が生まれます。

日本では経由を用いるディーゼル車が敵対視されている事もあり、一般車でディーゼルエンジンを搭載しているモデルは少ないのですが、ヨーロッパでは燃焼効率の良いディーゼル車が人気なので、トラックなどだけでは消費出来ない軽油を輸出しているほどです。

最近は燃費効率のいいガソリン車が増えている事もあり、石油そのものの消費も減る傾向があるので副産物も減っており、レジ袋の削減といったものも有効ではあるのですが、食文化の副産物である動物の革のように、無駄なく活用する事も立派なエコ活動なのではないでしょうか。

動物愛護の観点から動物の革製品に対して厳しい意見もありますが、皮の為だけにクロコダイルやダチョウ(オーストリッチ)を処分するのとは違い、牛肉のように食事として頂いたものの副産物として皮を利用するのであれば、決して命を無駄にしていないと思います。

戦後の日本では駐留していたアメリカ人が牛の美味しい肉だけを食べて廃棄していた事もあり、弱い立場だった在日朝鮮人を中心に残りをもらい受け、焼き肉やホルモン焼きの文化が根付いていったと言われています。

このような事を知ると、日頃から丁寧に靴を履くようになったり、メンテナスをするといった作業も、より一層楽しくなるのではないでしょうか。

先人の知恵、人間の知恵は本当に凄いなと思います。金にものを言わせて希少動物の皮のブランド物を身につけている人より、文化的な背景を尊重しながら大切に扱える人になりたいものです。

文化から職業

様々な国の文化が入り混じって選択肢が多い現代だからこそ、自分のアイデンティティや職業と、靴の素材を紐づけるような選択も粋なのではないでしょうか。

日本の酪農家の多くは長靴を履いて作業していますが、これも機能性を考えられた素晴らしい靴の素材なんだと思います。

一方で農作業から離れた時の普段履きに、長年乳牛として育てられた牛の分厚く頑丈な革で作られた革靴を履いていると、最高にカッコいいなと思います。

頑丈な革靴

一方で同じ酪農家でも黒毛和牛の産地であれば、乳牛に比べて若い内に卸されることになるので、イタリアのような柔らかい革が副産物として残るのかも知れません。

知り合いの秋田出身の人は、お米だけは「あきたこまち」しか買わないという人がいますし、やたらと眼鏡に対するこだわりが強い人がおり、出身地を聞いてみると福井県と答えて納得した事もあります。福井県鯖江市は国内の眼鏡フレームシェアの9割を占めており、小さな頃から社会科見学などで眼鏡文化に触れあう機会があるのだそうです。

物を選ぶ基準が、高級だから、有名だから、目立つから、希少性があるから、という人には理解してもらえない価値観かも知れませんが、自分の職業やアイデンティティに誇りをもっている人というのは、自然と身につけるものにもリスペクトをもった選び方や接し方が出来るのではないでしょうか。

一方で値段が安いから、お得だからだけで物を選ぶ人も眼力が養われません。雑な使い捨て文化になってしまいます。

どうしても日本は靴を脱ぐ文化なので、脱ぎ履きしやすい大きめのサイズの靴を履いている人が多いのですが、それだけに自ら靴の寿命を縮めるような履き方になってしまいます。

強引に足を押し込んでいたり、靴同士を擦り合わせて脱いでいると、直ぐにヨレヨレになってしまいます。ブカブカの靴ではまともに歩く事すら出来ませんし、姿勢や歩き方の乱れにも繋がってしまいます。

ファッションに興味がある男性であれば、そんな事はないと思いますが、多くの日本人男性は雑に靴を扱って寿命を全うさせる事ができていません。

きちんと靴紐を結び直して履いていると、靴底がすり減るよりも早く靴紐が切れてしまうものですが、きちんと靴と向き合ってきた証であり、決して縁起が悪い事ではありません。この縁起が悪いという考え方も日本の文化と関係しているのですが、

このような事も理解できるようになると、上質な革を用いられて作られた堅牢な革靴であれば、1万円をかけてでも靴底を張り替えるような選択に価値を感じられるようになります。

長年履き続けてきた靴というのは、自分の足の裏の形に合わせて中底が沈んでいき、アッパーの革も良く動く箇所だけが柔らかくなり、どんどん履き心地が良くなっていきます。

雑に足を押し込むような履き方をしていると、直ぐに履き口が伸びてボロボロになってしまいますが、それは靴本来の寿命ではなく、自ら寿命を縮めてしまっているだけです。

頻繁に靴を脱ぐといった日本ならではの文化が関係しているだけに、難しい面もあるのですが、それらの歴史的な背景を理解する事で、靴選びの選択基準や接し方というのも変わってくるのではないでしょうか。

革靴の素材一つとっても、その背景を考えると選ぶ基準が増えて楽しくなるものです。先人の知恵や苦労に思いを馳せられるようになると、ファッションの面白さも増していくものですよ。

まとめ 個性とは滲み出るもの

当ブログでは以前にバリエーションが豊富な携帯用の靴ベラが、名刺代わりに使えるという記事を紹介した事があるのですが、

酪農家の旧友がホルスタイン柄の携帯用靴ベラを使用していて感心したものです。携帯用の小さな靴ベラぐらいであれば、有名ブランドの物でもそれほど高価ではないので、多くの人でも挑戦しやすいのですが、自分なりのアイデンティティと結びつけるのも楽しいのではないでしょうか。

ロゴが大きなブランドのアイテムや奇抜な恰好というのは目立つものですが、

それが魅力的な個性となるかというと、必ずしもそうとは限りません。

品性のない人が高級ブランドを身につけると偽物に見えてしまう事もありますし、時と場所によっては周りの人をバカにしているような印象を与えてしまう事もあります。

私自身もファッションに興味を持ち始めた頃に、よくやらかしていたのですが、TPOを無視したファッションというのは、どんなに高価なものでもプラスに働くとは限りません。

だからといって部屋着のような適当なファッションだと、相手へのリスペクトが感じられないので、軽くあしらわれてしまいます。

個性が大事な時代と言われるようになりましたが、借り物の個性では魅力が滲み出る事はありません。

一方でその人が背負ってきた人生が感じられるものがあると、自然と魅力的な個性が滲み出てくるものです。

宗教的な理由で肉食を避けている人であれば、革製品は避けた方が良いですし、健康の為のベジタリアンやエコの観点からのヴィーガンであれば、また違った選択肢が見えてくるはずです。

再生ペットボトルから作られた繊維を用いた生地もありますし、天然の植物から作られた繊維が相応しい人もいると思います。

靴選びといった事でも、自分の職業や趣味と結びつける事ができますし、そこに素材まで想いを込められると、より一層の魅力的な個性になるのではないでしょうか。

もちろん目立ちたいだけの自分よがりな基準はNGですが、違和感なく収まる範囲であれば、素材の選択で遊ぶような事ができるものです。

「洋服なんかどうでもいい」という感じでユニクロを選ぶ人と、身体のサイズに合うのがユニクロだったから選ぶという人では、まるで魅力が違ってきます。

これは靴も同じです。

靴の量販店で適当に選んだ1万円の革靴と、様々な革靴を試着して吟味して選んだ1万円の靴では別物になります。たとえ全く同じ靴を選んだとしても意味合いが違ってくるので扱い方が変わります

靴紐を緩める事なく強引の履く事も無くなりますし、踵を踏みつける事もありませんし、つま先をトントンする事もありませんし、靴紐を緩めて固定するような事も無くなります。定期的に靴磨きをするようになり、靴底のすり減り方の偏りも注視できるようになります。

靴の傷み具合が変わってくるので長く良い状態を保ちやすくなりますし、そのように丁寧に接してきた靴の履き心地はどんどん良くなっていくので、歩き方や姿勢にまで良くなっていきます。

全く同じ一万円の靴でも意識の違いで魅力は全く変わってくるという事です。

これは洋服や靴に限った話ではないですが、その物がもつ文化や歴史に思いを馳せると、様々な気づきがあるものです。

踵を踏まれ、つま先が傷つき、脱ぐ度の擦り合わせて傷だらけになり、皺が深く刻まれて油分が抜けていき、シューキーパーを入れる事もなく靴底が反り返ってしまった革靴というのは、どんなにハイブランドのものでも魅力がにじみ出る事はありません。

靴の素材と食文化の関係といった事を知るだけでも、靴への愛着が一層と増すように、あらゆる物を選ぶ時でも同じなので、価格やブランド名だけに囚われずに、しっかりと自分の基準で選ぶようになってみてください。

あなたの好きな物、身につけている物には、どんな歴史が詰まっているのでしょうか。それを改めて認識することで益々好きになっていくはずですよ。

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