革靴の皺に愛着を!あなたの足に合わせてくれたのです!

ファッションコラム

新しい革靴の卸し方?

新品の革靴を履く前に、あらかじめボールペンなどで革靴の甲を押さえつけてのクセをつけておくと、綺麗な皺をキープできると言われています。

この方法であれば革靴の甲の理想的な位置に皺が刻まれ、しかも皺の位置が左右均等になると言われています。

実際に革靴の専門店でも購入時にこの皺の位置決めをされる事がありますし、専門書などでも紹介されているテクニックです。

これが悪いとは言わないのですが、個人的には必ずしも行わなくても良いのではないかと思えてしまいます。

革靴に皺が綺麗に入る事が理想ではありますが、自分の足の形や動きに馴染む皺になるとは限りません。

革靴の皺はオーダーメイド

私は中古の革靴を履いたことがないのですが、他人の足の形に合わせて皺が刻まれた革靴が、いきなり別の人の足にピタリと合う可能性は低いはずです。

足の肉付き、骨格、重心の位置、動き方までピタリと合うなんて、双子の兄弟でもない限り難しいと思います。

ボールペンなどで革靴にわざわざ皺を入れることにも、同じような違和感があります。

その皺が足の形や動きとピタリ合うのでしょうか?結局はその皺プラス、自分の足に合わせた皺が重なるだけのような気もします。

あらかじめつけた皺のクセのまま、その後も皺の位置をキープ出来るのもおかしな話です。左右の足の形に合わせて作られたビスポーク(オーダーメード)であれば、その辺も計算されて革のサイズを合わせてくれるのかも知れませんが、左右のサイズが同じ既成靴だと皺の出方も変わってしまいます。

多くの人は左右の足の形や筋肉の付き方に差があるので、既成靴だと両足がピタリとフィットする事は稀です。

大抵はサイズが大きい方の足に合わせることになるので、どうしても小さな方の革靴はブカブカで皺が出やすくなってしまいます。

ですが、その革靴の皺は必要があって刻まれたものです。革靴が自分の足の形に合わせて変化してくれたのであり、馴染んできた証でもあります。

革靴の皺

この写真は革靴を壁によりかけただけですが、皺の刻まれ方が左右で全然違うことがわかると思います。私の足は左のほうが大きいので、左足に合わせてサイズを決めるのですが、あまり皺が入っていないのが分かると思います。

もしこの革靴の購入時にボールペンで皺の癖を付けていると、小さい方の足の右側の革靴には、綺麗に皺が入ったかも知れませんが、サイズの合っている左足には不必要な皺が入ることになってしまいます。

基本的に効き足のほうが踏ん張る機会が多いので、足の筋肉の付き方に差がでるのは仕方がありません。特に成長期にスポーツをしていた人ほど、左右で靴のサイズが違う傾向があります。

革靴の紐の合わせ方

左右で違う事は当たり前の事なので、微調節ができる靴紐が重要なポイントになるのですが、スリッポンタイプのように靴紐がない革靴だと、それこそビスポークでもない限りフィットする事はありません。

スニーカーのように伸縮性のある生地でフィットしやすい靴だと、靴紐を緩めて固定していてもそれなりにフィットしてくれますが、革靴に限って言うときちんと靴紐を結ぶ事が重要なポイントになってきます。

靴の中底も体重を掛けられる事で徐々に沈んでいくので、どんどん履き主の足の形に合わせて馴染んでいくのですが、革靴の皺はその都度変化していくものなので、購入時に決めてしまう必要もないのではないでしょうか。

サイズ合わせの重要性

革靴に深い皺が刻まれている人というのは、サイズが大き過ぎる事がほとんどです。

一般的に革靴はスニーカーよりも0.5~1cmぐらい小さなサイズになるのですが、初めて革靴を購入する新社会人だと、今までと同じような感覚で革靴のサイズを選んでしまうので、皺も大きくなる傾向があります。

革靴の購入時には、きちんと両足を履いて踵に合わせてから靴紐を結び、しっかりとフィット感を確かめる事が重要です。

指先が当たるほど窮屈なサイズを選んでしまうのはNGなのですが、横幅が少しぐらい窮屈なのはOKです。徐々に靴底が沈み込みながら革も伸びて馴染んでいってくれます。

このような選び方をしていない人ほど、革靴のサイズが大き過ぎるので皺も深く刻まれる事になり、それこそ位置決めをする意味もあるのかも知れませんが、きちんとフィットしている革靴だと、そもそも大きな皺が出るものでもありません。

また靴の購入時で気をつけてほしいのは、試し履きをする時間帯です。

夕方や夜だと足がむくんでいる可能性があるので、その時間でピタリだとしても、朝はブカブカになる場合もあります。

足のむくみ具合は人それぞれ違うので何ともいえませんが、革が伸びることを考えると、むくむ前の朝方の足のサイズに合わせたほうが良いかと思います。

逆に足がむくんでいる夕方に合わせた方が窮屈にならずに済むといった意見もあり、履き初めて間もない頃の靴擦れ防止としては理にかなっているのですが、このような選び方をしてしまうと皺も大きく刻まれてしまいます。

洋服でも身体にフィットしているものほど余計な皺が出ないように、革靴に大きな皺が刻まれる事というのは、革が縮んで隙間を埋めようとした結果です。

縮んだ事で馴染んでくれたわけであり、それ自体は決して悪い事でもありません。

明らかにサイズが大きな場合は別ですが、多少の皺は足に馴染んできてくれた証なので、むしろ愛するべき対象なのではないでしょうか。

なるべくなら綺麗な皺を付けたいと考えるのが悪いとは言いませんが、そもそものサイズ合わせが適当だと、その皺を維持できるものではありませんし、足に馴染みにくくなってしまうかも知れません。

皺は個性

革靴の刻まれた皺というのは、あなたの足の形に合わせてくれた結果なので、必ずしも毛嫌いする必要もないのではないでしょうか。

明らかにブカブカなサイズを選んでしまった結果、深く刻まれて皺なのであれば、厚みのある中敷きを入れて調節する事で和らぐ事も出来ますが、きちんとフィットした革靴に刻まれた皺であれば、そもそも見栄えが悪いほど深い皺にならないものです。

バランスよく綺麗な皺が刻まれた革靴も素敵だとは思いますが、自分の足の形に合わせて刻まれた皺のほうが、愛着がわくのではないでしょうか。

深く刻まれた皺は、あなたが革靴と共に歩んできた歴史でもあります。

いい感じの革靴の皺

何をもってカッコいい革靴と定義するのかにもよりますが、一部のコレクターのように皺ひとつない展示品のような革靴が良いと考える人は多くないと思います。

きちんとメンテナンスをして良い状態を保ち、持ち主の汗が染みこみ、革が伸びては縮み、皺が深く刻みこまれ、革が柔らかくなり、足裏の形に合わせて靴底が沈み、持ち主との一体感が生まれた革靴の方が、個人的にはカッコいいなと思います。

ろくにメンテナンスをしていないと、皺が刻まれた箇所の革がひび割れてしまい、無残な姿になってしまいますが、細かな皺があちこちに出ているのに綺麗な状態を保っている革靴からは、持ち主の愛情が伝わってくるものです。

靴磨きをするようになると分かるのですが、靴の状態というのは持ち主の愛情の差がまざまざと現れるだけに、その人の考え方まで見えてくる事があります。

常にピカピカに磨かれた革靴が良いとも限らないのですが、見えないところにも手を抜かない誠実な人だなとか、逆に上辺だけの奴だなとか、様々な事が推測できるようになります。

皺が目立つ革靴でも、反り返っていないとシューキーパーを入れて保護しているなとか分かりますし、傷の付き方から脱ぎ方(靴同士を擦り合わせる等)が分かったり、靴紐の結び方から履き方が想像できるようになります。

「足元を見る」という言葉があるように、目立たないからこそ手を抜きやすい足元には様々な情報が含まれているので、皺ひとつとっても様々な事が分かるものです。

馴染むの究極形

元プロ野球選手の新庄剛志さんは、思い入れのある安いグローブ(確か7000円ぐらい)を現役時代にずっと使っていました。

何度も修理に出しまで使い続け、メジャーに行っても日本に復帰しても、その安いグローブを使って超一流の守備をしていました。

新庄剛のグローブ引用元:http://kichihair.exblog.jp/15807496

新庄さんいわく、このグローブは力を抜いても脱げ落ちないのだそうです。

新庄さんの一流の守備の極意を探る番組で本人が語っていたのですが、打球に素早く反応する為には身体の力を極限まで抜くことがポイントなんだそうで、馴染んでいない新しいグローブだと、手に力を入れて握っていないといけないのでダメなんだそうです。

一方で馴染んだグローブだと手に意識を向ける必要がないので、極限まで脱力出来るので素早い反応が出来るとの事でした。

頭にグローブを乗せる新庄、稲葉、ひちょり引用元:http://livedoor.blogimg.jp/fightersmatome/imgs/6/5/651840e8.jpg

新庄さんの手の形に馴染んだグローブは、どんなに高級な革で作っても代わりにはなりません。

私は高校野球経験者なので、硬式野球のグローブを所有していたのですが、7000円のグローブはとんでもない安物です。当時でも安くても2万円ぐらいはしていましたし、ちょっと良い物だと5万円ぐらい当たり前の世界でした。

一流のプロ野球選手であれば、オーダーで何十万ものグローブを使っていても不思議ではありませんが、彼がそこを選択しなかった事が凄く印象に残りました。

自分の足に馴染んだ革靴というのも、替えが効かない素晴らしい物なのではないでしょうか。

安い革靴だと靴底が接着剤でくっついているので交換が難しいのですが、踵のすり減りぐらいであれば補修材などで対処できますし、スーパーやホームセンターなどにある修理屋さんで直してもらう事もできます。

ある程度の価格の革靴であれば、靴底が縫い付けられているので丸ごと交換をする事も可能ですし、きちんとメンテナンスをして良い状態を保っている革靴であれば、10年ぐらい履き続ける事も可能です。

自分の汗を吸って足の形に合わせて変形した革靴も、新庄剛志さんのグローブのように大切に扱う事で、最高のフィット感を実現してくれるのではないでしょうか。

まとめ 皺は革靴に宿る美

サイズが合っていない洋服に出る皺というのは不格好なものですが、きちんとサイズを合わせた洋服に出る自然な皺は美しいものです。

何度もオーバーホールをしながら使い続けている腕時計の細かなキズも素敵なものです。新品にはない輝きが宿っていきます。

長年履き続けたジーパンに刻まれたキズや皺や色褪せが似合うのは持ち主だけです。ダーメジ加工されたジーンズだと、キズや色褪せたポイントが微妙にずれて不自然さが漂ってしまいます。

革靴の皺も同じではないでしょうか。不自然に付けられた皺よりも、持ち主の足の形に合わせて自然に刻まれた皺には美が宿ります。

革靴を愛してきた歴史が刻まれているのであり、必ずしも左右対称の美しい皺である必要はありません。

革靴を履く時にきちんと靴ベラを使い、靴紐を結び直し、脱ぐ時にも靴紐を緩めて手を使って脱いでいると、履き口が傷んだり広がる事もありません。

雑に扱ってきた革靴に付いてしまう傷や皺には美は宿りませんが、きちんとメンテナンスしながら脱ぎ履きをしてきた革靴には美が宿ります。

上質な革を用いた高級ブランドの革靴を購入しても、普段の扱い方が雑だと良い状態は保てませんし、不格好な皺や傷がついてしまいます。

革靴の皺というのは、良くも悪くも持ち主の向き合い方がよく現れているので、真剣に向き合ってみる価値があるのではないでしょうか。

定期的に靴磨きをしたり、シューキーパーを入れたり、中敷きで調節する事で皺の出方も変わってきます。

新品の革靴に皺をつけたり、ジーパンにダメージ加工をすると、自分好みのデザインにはなるかも知れませんが、そこに美が宿るかというと微妙です。

革靴でも洋服でもジーパンでもそうなのですが、柔らかくしたいだけなら、ぐちゃぐちゃに揉み込んでしまえば良いのですが、それだと張りを保っていてほしいところまで柔らかくなってしまうので、ヨレヨレになってしまいます。

洋服なら関節などの可動部ではない箇所の生地や縫い目は、適度な張りを保ってくれていた方が良く、逆に可動部の生地や縫製は実際に動く事で徐々に柔らかくなって馴染んでいきます。

このような自分の身体に馴染んだ洋服というのは、新品の洋服にはないフィット感や機能美が宿ります。

ただメンテナンスがいまいちだと、せっかく身体に馴染んできた頃に傷んで寿命を迎えてしまいます。

これは革靴でも同じであり、日頃から丁寧に向き合う事で余計な皺や傷やヨレを防いでおかないと、せっかく馴染んできた頃にボロボロになって寿命を迎えてしまいます。

数ヶ月置きに新品の革靴に買い替えている人であれば、ろくにメンテナンスをしなくても皺がひび割れてしまう事もないのかも知れませんが、そこに美は宿りません。

きちんと革靴をメンテナンスしながら丁寧に脱ぎ履きをして向き合っていると、革の質による皺の出方の差に気がついたり、デザインによる皺の出方(見え方)にも気がつくようになるので、どんどん相性の良い革靴というものが見えてきます。

皺が目立ちやすい一枚革の革靴だと、上質な革でないと良い状態が保てませんし、逆に装飾的なデザインが多い革靴だと、それほど目立たないという事も理解できるようになります。

革の色によっても相性がありますし、自分の環境によっても相性の良しあしが分かるようになります。

革靴に刻まれた皺と向き合う事で、様々な気づきが得られるものなので、毛嫌いせずに真剣に向き合ってみてください。

自分の足に合わせて適応してくれた皺と向き合う事で、より一層愛着がわいてきますし、メンテナンスだけでなく履き方や脱ぎ方や歩き方といった事にも意識が向くようになるので、どんどん洗練された美が宿っていくものです。

三流ドラマや映画の役者のその場限りの衣装や革靴だと、どことなく不自然さが漂ってしまうように、馴染む事や愛着の差が印象を左右する事は珍しい事ではないですよ。

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